百年前の疫病のお話

私が20代のころ『ベニスに死す(→こちら)』という映画を観ました。音楽は素晴らしかったのですが、若すぎたせいか、内容の深い部分はよく理解できませんでした。

コロナ禍の中、「あの映画の中に確か疫病が流行り始め、ヴェニスの街を覆いつくすシーンがあったけど、あの疫病は何だったのかな?」と気になっていたら、たまたまDVDのセール商品の中にこの映画を見つけ、もう一度観なおしました。

果たしてこの疫病はコレラで、約100年前の1912年に書かれたトーマス・マンの小説を1971年に巨匠ルキノ・ヴィスコンティが映画化したものでした。

旅行客が落とす金が主な収入源のヴェニスの政府は、コレラ流行を旅行客に隠し続けます。が、主人公は頻繁に行われる消毒作業を不審に思い、真相をつきとめます。そして「危険だから一刻も早くヴェニスを離れるように」と忠告されますが、美少年に心を奪われていて、ヴェニスを去ることができません。あわれ老紳士の倒錯した恋の末路は…?

背景に流れるマーラーの交響曲第5番4楽章アダージェット。甘美で胸が締め付けられるような旋律です。

トーマス・マンの手にかかれば、コレラも素晴らしい芸術作品に。現代のコロナ禍も、何十年か経って、過去のこととして映像や文学作品に昇華されたらいいですね。

一転して、ボカロP syudouが手掛けたAdoの『うっせぇわ』。小4の生徒がピアノで弾きたいというので聴いてみました。

「子どもが連呼するのを聞いて親は困惑」とYahooニュースにまで取り上げられていました。社会風刺の歌詞の意味を理解することなく、子どもが「うっせぇ、うっせぇ」だけを口にするようにならなければいいのだけど。

『アダージェット』のとてもゆったりした少しじらすような音楽表現は、現代社会のテンポには合わず、かえってイライラを増幅させることもあり、むしろ『うっせぇわ』のテンポ感のほうが心地よく癒やされる場合もあるかも知れません。

でもTPOに応じて、ジャンルを超えた癒しの曲の選択肢が広がると、生活の彩りが豊かになりますね。